闇の部屋温泉
2017.04.19 Wednesday
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朝の六時から温泉に入る。モダンな設えを通り抜け、打たせ湯、大浴槽を楽しんでいると、何やら奥へと続く穴があった。排水溝にしては大きすぎるので、何であろうと吸い込まれていくと、奥の奥に、胸元まで湯で満たされた暗闇の部屋があった。四畳半ほどの広さであろうか。目が慣れないうちに手探りで進み、再奥に居座ると、鐘の音がゆったりとした間をとって響いている。あいにくその音は空調音と排水音とにかき消され気味なのだが、確かに鳴る鐘の音に、その暗闇の湯が瞑想場と化すのであった。メディテーションバスと名付けられたその温泉施設の真骨頂はここにあり、なのである。入浴中の瞑想を僕は避けているので、そこではただゆるゆると過ごした。よくぞこういう数寄な遊びを作ったものだ、と感心しながら、早朝の温泉浴を楽しんだ。客は我ひとりである。鼻歌でも奏でようかと思いつつも、場所は暗闇である。鐘も鳴っている。鼻歌はいつしか読経のように聞こえるだろう。暗闇からそんなのが聞こえたら、二番の客に戦慄を与えかねない。そんな気遣いもあって朝の鼻歌は控えた。しかししかし、早朝のひとり湯の気持ちよさよ。芭蕉や蕪村ならどう歌うのか。我ひとり闇とたわむる。そんなふざけたことばかりを思いつきながら、せっかくメディテーションバスの時間は通俗的に過ぎ行くのであった。設計者に申し訳ない。だが、我はこの闇の部屋をとても気に入った。願わくば再訪したい。その時は深夜に訪れてみたい。夜の闇の穴で、湯の声を聞いてみようと思うのである。ちなみに写真は闇の入り口である。
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湯殿山仙人沢参篭所【湯殿山仙人澤温泉】に似ている感じでしょうか?
- by 松葉蘭
- 2017/04/19 9:38 AM
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